我が家から車で30分程度というご近所さん感覚にあるカメラーノ・ヴァラーノ地区。
アンコーナの中心地からも車で15分程度で到着するこの地は、コーネロ山の麓になだらかな丘が広がり、その地形と気候を活かしワイン造りが盛んな場所である。
マルケ州のDOCGワインに認定されている一つロッソコーネロ(Rosso Conero)もまさにここで育てられたぶどうのみが成りうるワインで、
イタリアを代表するワインメーカー Umani Ronchi社の本社もこの近くあり、
新旧、大小様々な個性豊かなカンティーナが存在する。
カンティーナはどこのエリアでも往々にして個性豊かではあるが。
今回は去年もご一緒したワイン醸造の研究者さんを日本からお迎えし、その研究の一環としてカンティーナ探訪。ただ、個人的にかなり楽しく見学させて頂いた。
ここ2年ほど、ぜひ訪れてみたいと思っていたカンティーナ Cantina Silvano Strologoに今回、訪問することが出来た。
9月中旬という収穫時期真っ只中の忙しさであろうにも関わらず、
いきなりの電話連絡でその翌日の訪問をすんなり快く受け入れてもらえた。
ただ、電話での対応は非常にぶっきらぼうで、途中で「結構です」と切りそうになったくらいだが、
心を強く持ち、話し続けた自分を褒めてあげたいほどだ。
もともと、おじいさんの代がワイン造りを行っていて、1990年代に会社として起こしたSilvano。
口数はさほど多くはないが、話しかけると楽しげに説明をしてくれ、
2000年頭には日本にも来たことがあるとのこと。
当初は日本への輸出も行っていたが、最近はお呼びがかからないな、と少し寂しげ。
アンコーナ生まれの根っからのワイン生産者っぽく、ビジネス臭がしない、言葉は悪いが少し時代遅れな感じがするのがこのカンティーナの魅力に感じる。
栽培するぶどう品種はモンテプルチアーノ、サンジョヴェーゼ、インクローチョブルーニの3種のみ(恐らく)。一番驚いたのは、サンジョヴェーゼとモンテプルチアーノを使ったメトドクラシコ(シャンパーニュ)方式のスプマンテを自社内で製造しているということ。
通常のワイン醸造と勝手が違うので、多くのカンティーナはスプマンテ化専門の工場で、ブドウジュース(モスト)の発酵からワイン醸造など一連の製造過程を任すのが一般的だが、彼らは自分たちのカンティーナ内で行っているというのでなかなかのこだわりだ。
そして、この日、2014年のヴィテージで、現在は市場には出ていないものになるがと、栓詰めをしないまま、蔵内で寝かせてあったメトドクラシコスプマンテ ”Dal Nero”を特別に開けてくれた。
なんと豪快で太っ腹。
私達のグループは、日本人3人だけ。
しかも、どう見ても、飲みまくりそうにも買いまくりそうにも無い風貌。
そんな私達に対しても、気前よく自分の造った美味しいワインをふるまってくれ、商売っ気の無さに申し訳ないやらありがたいやら…。
肝心のお味はというと、香りは素晴らしい。しっかりとした芳しいトースト香にふわっとした黄色や白色の花の香りがグラスいっぱいに充満。味わいもあり、泡もキレイで素晴らしい出来栄え。冷やして無くてこれほど美味しいなら、冷やしたあとの美味しさはどんなものなのか、、と想像が膨らむばかりである。
ロッソコーネロは、かなりしっかりとしたタンニンを残し、あえてその粗さが楽しい感じ。
ただ、果実の感じもしっかりと残っているので、ガツンと来るタンニンもしんどすぎない。
ワインは本当に不思議で造り手のイメージがそのまま具現化されているよな、と思う。
Silvanoと話しをし、こんな感じだろうな、と予想したままのニュアンスなのが面白い。
こんなにタンニンのしっかりした赤ワインには、脂身を感じるサラミが合う。。。
と、「いらないよ!」と念押しをしたにも関わらず、振る舞われたお手製のサラミ。
近所で豚を飼っている農家さんからお肉を分けてもらい、Silvano自身が造るらしく、調味料は塩と胡椒のみで、サラミに使われている香草が苦手な私でもとても美味しくいただけた。
Silvanoの造ったワインとサラミのアッビナメント(マリアージュ)が合わないわけがなく、
これ以上のものはないと言い切れる素晴らしい相性。
ワインと食事は本当に切っても切れない間柄であることを改めて実感させられた。
こちらが今日戴いたラインナップ。このカンティーナで造られているすべてのワインだ。
最初に「全部飲むよね?」と聞かれ、「いやいや、栓が開いているものだけで良いよ」と伝えたにもかかわらず、あれよあれよと言う間に、9種類のワインのすべての味見をさせて頂いた。
彼らのロザートワインはこのエリアでも人気が高く、
また、インクローチョブルーニ種を樽で熟成させた白ワインもかなり魅力的な味わいだ。
赤ワインに関しては、どれもしっかりとしたタンニンを感じることが出来、しっかりとしたボディが特徴的。日本でお料理に合わすならば、かなりこってりとしたソースや脂身のあるお肉料理が必要になるかな。こう考えてしまうと、日本で口にする料理との相性がなかなか難しいところで、いつも頭を悩まされる。
Silvanoの話しは興味深く、彼らワイン生産者の実情なども語ってくれた。
アンコーナからも近く、魅力的なワインも取り揃えるCantina Silvano Strologo はぜひともマルケ州でのワイナリー巡りの一つに加えてほしいカンティーナである。